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制作秘話 79

《其の七十九》

本当におもしろい物語の、おもしろさの神は、全体まとめてではなく、細部にわたってしみこむように宿る、らしいです。よくそういわれています、世間(?)で。

それってどういうことなんだろう……と考えてみようかと、無謀にも。

以前このコラムで、「文章を上手に見せるポイント」というのを書きましたが、あれとはまた、ちょっと違うのではないかな、と私は考えているわけです。

たぶん、小説家さんみんなに聞いたら、みんながみんな、ちがうことをおっしゃるのではないかと思います。
「そんなこと、言葉にできない。考えるんじゃない、感じるんだ」とおっしゃるかたも少なくないのではないでしょうか。

でも、私はがちがちの理屈やなので、あえて理論で考えてみようかと、私の感じる「細部に隠れている神さま」を。


行間から空気感を感じる、という表現ができるもの……においとか、喧噪とか、湿り気とか、乾いた風とか、冷気に熱気。
そういう目では見えないものが、文章を読んでいて感じられたような錯覚、それは私の基準で神が宿っています。

その場面の画像がはっきりと脳裏に映った、それも私基準では神がいます。

読み終わった後もぼーっとしてしまって、物語世界から抜け出せない。
これも宿る神に魅入られたのだと、私は思います。


では、そういう文・物語を書くにはどうしたらいいんだ技術論はあるのか? という問題ですが。
あったら苦労してねぇよっ、というのが、私も含めた小説家の皆さんの本心なのではないでしょうか、と推測するのです、すみません。

でも、神に近づきたい、と願うわけです私は。
どうにかして。

及ばすながら私がやってみていることは、一言だけ多くする、です。
「煉瓦の壁だった」を「かび臭い煉瓦の壁だった」とする、とか。

具体的に言うと、抽象的な比喩表現ではなく、具体的なリアリティある、筋の通った一言を選択する。

背景描写だけでなく、心理描写でも、何か一言、慎重につけたす。
全部が全部につけるとうるさくなってしまうので、ドラマや映画のワンカットに対して、一言か短い一文をつけたす。
説明はしすぎない。


理屈で説明するとか言っておいて、いきなり抽象的な例え話になってしまって申し訳ないのですが。
こういう「一言つけたし」をやると、ガラスの壁の向こうの物語の世界が、よりクリアに見えてくるんです。

私にとって、物語の世界は、曇って分厚いガラスの壁で仕切られた向こう側にあり、勝手にキャラが生きて展開させていて、私はガラス越しにながめて、それをラジオのように言葉だけの世界で実況中継している、かんじなのです。

その分厚くて曇ったガラスは、向こう側がとても見えにくいので、クリアに見たい一心で私はけんめいにガラスを磨きます。

磨くのは言葉……呪文です。ぞうきんではありません。

まあ、ぞうきんにつける洗剤がすなわち呪文だとしてもいいのですが、とにかく力任せに空ぞうきんで拭いてもダメで、ぞうきんにつける何かの言葉を見つけないと曇りはとれません。


それが、つけたす一言、なんですね。
時にはとても効果的な「文章まるまる一つ」になることもあるのですが、ガラスを広めにクリアにできるにとか、とてもかんじんないい場面をのぞけるとか、そんなすばらしい効果のあるものはなかなか見つかりません。


うまいこと正しい言葉を探すと、ちょこっとだけはっきり見える部分ができます。
そこからのぞけた物語世界の風景やキャラの行動の一部分をヒントに、ガラスを透明にする次なる呪文を考えます。
ガラスは場所によって、磨ける呪文が違うのです。


その呪文の言葉、が細部の神様がくれる言葉だと、私は考えているわけです。
曇りがとれるだけでなく、さらに呪文を積み重ねて磨くとガラスが薄くなっていって、キャラに触れられそうなくらい、仕切りがあるとは感じられなくなるくらいになります。

この状態を、自分だけでなく、読者さんにも感じていただいたとき。
読者さんには磨く途中ではなく、きれいにしあげた状態の、薄い薄い無きがごとくのガラスにしてお見せできたとき。

それを私は「神が細部に宿った」と呼ぶのではないかなあ、と考えているのです。
まだまだ、そこに至る道は遠いのですが…………。

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