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制作秘話 77

《其の七十七》

先日アニメ「バクマン。」を視てまして、漫画家を目指す主人公コンビに、担当編集者さんがアドバイスする台詞(原作通りなのですが)を耳にしたとき、「あ、私もデビュー当時似たようなことを注意されたな」と不意に思い出したのです。
なので、自分メモというか自戒も込めて、ここに書いてみますね。

それは、敵の描きかた。

おもしろい漫画の条件の一つに「主人公と同等か、よりかっこいい敵がいること」というような台詞だったのですけど、なぜ敵がかっこよくなければならないのかは、説明されていませんでした(これも原作通りです)。

その理由がわからないようなら、とてもプロになるのは無理、という原作者の先生からのメッセージなんだろうな、と私は思ったので、ここで私の考えや受けたアドバイスを書くのが正しいのかどうか、びみょーかもしれませんけど。


なぜ主人公よりも敵のほうがかっこよくなければならないか。

それは、敵がかっこわるいと、主人公もかっこわるく見えるから。
かっこいい敵をかっこよく倒せば、主人公はもっとすごくかっこよく見えます。


私がデビュー作というか応募原稿で書いていたのは、敵方からわらわらと放たれる雑魚兵ばかりを、ばったばったと一発でなぎ倒すだけの主人公でした。
それで、主人公がむちゃ強いことを表現しているつもりだったのです。

しかし、当時の担当さんは「それじゃダメ」とおっしゃいました。

そんなシーンが何度も出てくるけど、単調になること、自分の意志でなくただ命じられて出てくる相手じゃ主人公が弱いものいじめしてるだけみたいに思えること。
何よりも、自分よりも強い――技や武力だけでなく、戦う意志や目的も確固とした敵とぶつかることで、主人公が成長する。

読者さんが読みたいのは、どんどん成長してかっこよくなってゆく主人公だから、相手が弱かったら成長する幅が出てこない、のです。

それに、敵の戦う理由が「周囲を征服してなんでも好き勝手に振る舞う」程度のもの(ただのわがまま、個人的な欲望)としたら、主人公は正義の味方でしかないから、戦うのに葛藤は生じません。
それはせいぜい幼児向けの戦隊シリーズみたいなものまでしか、おもしろいと思ってもらえないんじゃないか、というアドバイスでした。

主人公には「自分の戦いは果たして正義なのか」という迷いとか、「なんのために戦ってるんだろう」とか悩み、「でもやっぱり、大切な人を守りたいんだ」みたいな「物語の目的地の再確認」を繰り返すことで、ストーリーがひっぱられてゆく方向を読者さんに期待させるように、と。

主人公を迷わせるには、敵の戦う目的にも一理あり、けっして間違いではなく、しかし主人公の目的や夢とはぶつかってしまう、という「葛藤」が必要なわけですね。


そしてたいていのおもしろい漫画や物語には、戦いを乗り越えるために苦悩した結果主人公が成長し、今までかないそうになかった敵をとうとう倒すことで、その敵が感服して味方になる、というパターンがよく出てきます。

「主人公を成長させるため」「主人公をさらにかっこよく、物語を感動的に見せるため」に、敵はかっこよくて強くて、主人公と戦う理由が明確でしかも「一理あるかんじ」でなくてはなりませんよ、というアドバイスだったのですね。

「特にラスボスはむちゃくちゃ強くて、しかも美学がないと」、と指導されたことを思い出しますねぇ。できたら物語の早い段階から、そんなラスボスが待ちかまえているとにおわせておいたほうがいい、ってうかがいましたっけ。

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