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制作秘話 73

《其の七十三》

なんだか企業秘密ぎりぎりの攻防になっている第二弾?
今回は「けっきょく、物語のおもしろさって何?」です。

「おもしろい」物語。抽象的ですよね、おもしろかったという言葉。

この抽象的な「おもしろさ」に具体的な姿を取らせてみよう、というのが今回のお話の目的なのです。

前置きするのはめんどくさいので、ずばり、言ってみましょう。

「ギャップ」なんじゃないかなと思って、私はやってます。


個人的に私が「小説」を読んで一番の醍醐味と思うこと、これが見たくて本を読む、のは「スタート地点からは予想もつかない場所に主人公が到達すること」のためです。

たびたび申し上げてますように「物語とは葛藤の解決過程」なのですから、元通りの平穏無事な生活を取り戻せればいいのですが、主人公は解決と引き替えにときとしてとんでもない場所に行き着いてしまったり、少なくとも解決過程のクライマックスにはとんでもない場所を通過・経験しなくてはなりません。

スタート時点からは予想できなかった場所、スタート時点とのギャップ・落差・ずれが大きいほど、おもしろい、と私は感じます。


このギャップは、キャラにも言えるんじゃないでしょうか。

このコラムのずいぶん最初の頃、強いキャラには一つだけ弱点を、弱いキャラには一つだけ誰にも負けない特技を、と書いた憶えがあります。
具体的には「ドラえもんの弱点はネズミで、のび太の特技は射撃」というやつです。

どんなキャラにも、その主たる性格に似つかわしくない意外な一面があると、不思議と親近感が増すんじゃないでしょうか。
ツンデレ、なんてのはその典型ですよね。感じる親近感を「萌え」と言い換えてもいいかもしれません。

キャラに厚みや奥深さが出るというか、こっそり秘密をのぞいてしまってそのキャラを自分が独占した気持ちになってしまう、それがキャラの中のギャップじゃないかなと思います。
これは「おもしろさ」と言ってよいと思うのです。


世界観の設定にオリジナリティを出すのも、この「ずれ」一つあればいいのではないかと思ってます。
史実に題材をとるような歴史物の設定でも、ひとつだけ、自分独自の「ずれ」というか「異物」を紛れこませるだけで、違う視界が開けますし、新たな展開が考えられます。

このパターンでは例えば……「あの武将が実は女だった」とか、「若くして死んだはずのあの人物が実は生きていた」とか。
あるいは、歴史にあるはずのないメカなんか、一つぽっと紛れこませてみる。
例えば、現代人がタイムスリップして、過去に現代の武器や智恵を持ちこんでしまうみたいな。

ここに上げた例だけでも、すぐにいくつかの作品タイトルが思い浮かぶのではないでしょうか?


全体としては堅牢かつ緻密に考えられて統一されたうちにある意外なギャップ、それが大きいほど、けれどうまくそしてがっちりと物語全体を支配して浮いてしまっていない、それが「おもしろさ」の正体だと、私は考えているのです。

そう、浮いてしまってはだめで、ギャップが自然に溶けこんでしかも魅力になっていて、主人公達の心理をも不自然でなく必然に揺れ動かさないと。

こういう風に物語内で機能する「ギャップ」をいかに考えだすかが、勝負になってくるかもなあ、と私は意識して設定考えているわけなのです。
うまくいくかどうかは、また別問題として(笑)

このギャップは設定に失敗すると、逆にストーリーや主人公の足かせになる大いなる矛盾になってしまいかねません。
それをいかに不自然でなく乗り越えるか、がたいへんなところでしょうね。


では時海はこのギャップをどう考えだすのか、いよいよ企業秘密の公開ですぞ〜(笑)

こんな呪文を唱えるのです。

「より危機的に、より悲劇に、より滑稽に、よりハデに、けれどよりシンプルに」

いくつかの案を並べておいてから、この呪文を唱え、呪文に合致したものを選択するわけです。
いくつもの案を出さないと、この呪文は唱えたところで発動はしませんからね?

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