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制作秘話 61

《其の六十一》

人称の話。
一人称と三人称があります。

二人称はないわけではありません。主語が「あなた」の文です。
「あなたは○○をした」で全てが進んでゆく物語です。

でもこれ、書くのに相当なテクニックがいるので、珍しいと思います。
少なくとも私の技術では困難です。すみません。


ここでは一人称と三人称の書き方・選び方について、私の方針をご紹介します。

私のデビュー作は一人称二人視点という比較的珍しいものでした。
いえ、当時の私は何も知らなかった愚か者でしたので、一番都合のいい書き方にしただけなんです。

章単位ごとに「私」(鳴)か「俺」(颯音)の視点どちらかで統一され、交互に来ます。
まあ、巻によっては、仕掛けのために視点がかたよったりしたんですが、わざと。

でも今、これをやるなら、私は三人称で書くと思います。


一人称は主人公の視点のみで書かれます。
主語は「私」もしくはそれに該当する自称。

特徴というか、気をつけなければいけないことは、主人公の知らないことは書けないってあたり。
相手キャラの気持ちや考えていることは、表情や態度から、「○○と思っているみたいだ」としか書けません。

あと、主人公の知識の範囲を越えることは、誰かから説明を受けないとなりません。
主人公が初めて目にする技術や物体、主人公がいない場所で起きた出来事などです。

その部分を自然に見せないとならないかわり、主人公の心理は地の文にどんどん書けます。
読者さんと主人公が一体化しやすい書き方です。主語を略せてテンポもよくなり、スピード感が出ます。


三人称にはいくつかのパターンがあります。

まず、主人公視点固定。一人称とさほどかわりません。主人公以外の視点が存在しないのです。
「私」の代わりに「結以」と名前が書かれ、心理は()内に書かれて地の文と区別される、というのがパターン。

主人公以外のキャラの心理は「○○と彼は感じているのだろう、と結以は判断した」みたいに書く必要があるため、構文によってはややこしいです。


次は複数視点。
作家さんによってたまに数行ごとにころころと視点が変わり、Aは○○○だと思った。の後に会話をはさんでBは○○○と思った。というのがあります。

これ、マンガ的な書き方、なのですが、新人賞の応募先によっては、これだけで落とされる可能性も否定できないようですから、ご注意をお勧めしたいと思います。

なのでできたら応募作では、この書き方をしないように意識した方が賢明じゃないかなと思います。
マンガではごく自然なことなのですが、あれはキャラの顔が横にあるからモノローグが誰のものかわかるのであって、文章ではかなりのテクニックがいります。
少なくとも私にとっては、難しいです。

複数視点だったら、せめてブロック単位、視点が変わったら、一行空けて、誰の視点に変わったか最初に判るようにするのが基本ルールですね。


複数視点の特徴は、キャラの思惑が入り乱れることです。
このキャラの知らないことを、あのキャラは知っている。全員の心の中を知っているのは読者さんだけです。

なので想いのすれ違いや、主人公が知らないところで進む悪だくみに、読者さんははらはらします。
これが一番の醍醐味です。

気をつけなければならないのは、知らないことをいつのまにか知っている、という混乱を作者が起こさないようにするってあたり。
タイムテーブルとか、プロットとか、メモとか、何か別に書き付けてキャラやエピソードを管理しながら書く方がいいかもしれません。
というか、私はそうしてます(笑)


そして、神の視点。作者視点とも言います。
地の文に解説や作者のツっこみが入ったり、上記のように複数のキャラの心理が入り組んで描写されます。

これもテクニックがいるというか、上記のマンガ的な書き方も神の視点といえばそうなのですが、やるなら意識して徹底した方がかっこいいと思います。
半端に作者のご都合で一部分だけでやるのはやめた方が、できばえがよりすばらしくなるんじゃないでしょうか。


マンガやシナリオはこの神の視点で全て書かれます。なぜか。
視点を持つ主人公の顔が、画面に、外側から描かれてます。表情も。
だから、読んでいる読者さんが、それを天から眺めている存在で、神なのです。

しかし小説は視点を持つ人物の中に入って、そのキャラの目を通してしか、描写がされないのだと、憶えておくとお得だと思います。
小説とはそういうものだとする編集さんや審査員の先生がいらっしゃるからです。

小説では、視点を持つキャラの顔を、読者さんは鏡以外で見ることができません。他のキャラに言わせるしかないのですね。
読者さん自身がキャラに憑依しているからです。


それで。
書くときに、一人称と三人称どちらを選んだらいいか、ですね。
まずは、必ずどっちかで統一しよう、それが必要なことだと思います。

プロの作品だと、混在しているテクニックもありますが、意図があって技術もあって、やっていることです。
まだ私も未熟者ゆえできません、すみません。

私はそれぞれの利点を活かせるかどうかで決めてます。

つまり「思惑が入り乱れる」「想いのすれ違いがある」がおもしろくなりそうな設定なら三人称。

主人公の気持ちに徹底して寄り添ったり、一人称ゆえのトリック(主人公に名前がなくてもいいと前回書いたこととか、主人公の顔が見えないゆえにとか)を仕掛けたいなら一人称。

余談ながら世の中には、一人称主人公の誤解ゆえに、とか主人公の顔が見えないゆえに、という叙述トリックのミステリーの傑作がいくつもあります。

いつかそういう風に使いたいものですが、とりあえず今の私は「テンポがよくなる」「主人公の心理に深く寄り添う」ために一人称です。


ただ、これから小説を書かれるのでしたら、まず両方試してみて、書きやすい方からはじめた方がいいでしょうね。

私は最初三人称で書きはじめました。それが普通だとなぜか信じていたんです。視点が固定されすぎると、途中で困るかもしれないと思ったし。
一人称で書いたのはデビュー作が初めてです。しかも未熟なので、二人分の一人称だった、というオチでした。

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