風の鳴る音
既刊情報
制作秘話93
かぐや姫の罪と罰
制作秘話92
竹取物語ネタばれ
制作秘話91
一番大事なこと
制作秘話90
小説家へのルート
制作秘話89
読みやすい小説を書くには
制作秘話88
平氏は本当に滅びたのか(ネタバレ)
制作秘話87
平家物語の名前
制作秘話86
「細かい」仕事
制作秘話85
意外な上達のコツ?
制作秘話84
物語創作最大の難関
過去の制作秘話一覧
中高生むけの作品

既刊の案内と情報はこちら

 

制作秘話 60

《其の六十》

今回は、書き出しについて、です。
物語のはじめのところ。

最近出版社公式サイトで「立ち読み」=冒頭の何ページかを無料公開が増え、書き出しって本当に大切になってきました。

まず「いったい何が起こるんだ、おもしろそう」と思われなくてはなりません。

でもどういう状況なのか、読者さんにすぐ判らなくてはなりません。

スピード感のあるシーンではじめた場合、この「状況」「キャラの外見や設定」の説明が遅れがちになります。
立ち読みの3ページ以内で最小限の設定説明を、不自然でなくこなさないとなりません。
この説明で、おもしろくなりそうか判定されるのですから。


私がかつて、「小説の書き方」本で目にしたと記憶のあるふたつのポイントは、「主人公を走らせろ」と「世界観の説明からはじめてはいけない」でした。
すみません、どこで読んだか思い出せないので、ご教示いただけたら幸いです。

走らせる、これは私もわかります、キャラが全力で走っていれば、絶対何かが起きているからです。用もないのに私たちは普段全力疾走しませんもの。
訳あって急いでいるか、逃げているか、追いかけているか、スポーツの練習か本番、このうちのどれかだと予想もしやすいです。どれかを読者さんは期待します。

ベッドから起き上がって、のびをして、顔を洗って、みたいな平和ないつもの朝ではこれから何が起こるか、読者さんが予想も期待できないですよね。
こういう書き出しは絶対によくないってわけではないですが。読ませる相応な技術が必要です。

いえ、「どーも」の1巻は、「謎の転校生」というべたなギミックをしたので、どうせなら書き出しでは主人公が走っている、というべたべたにしようと思いまして(笑)
「遅刻遅刻ー」と食パンくわえて……はさすがにやめましたけどね(笑)


余談はともかくとして、以前「あさき5」のネタばれでも書いた気がしますが、小説というのは、主人公が平穏な日常を「何か」によって乱されるという「葛藤」を解決して、日常を取り戻してゆく「過程」のことです。
主人公の大切なものに「欠損」が生じて、その「回復」のために「行動」する、みたいに表現している指南書もあるようです。

だから、冒頭では、日常が変わるようなできごとが起きるんですね。
くりかえしますが、主人公が走っているのは、何かがあったからです。
ほかにも「人混みで突然誰かが悲鳴を上げた」とか、「空からあり得ないものが降ってきた」でもいいわけです。


世界観や詳しい舞台設定の説明は、起承転結なら、承の終わりくらいに入れば充分です。
それも、説明文が続くのではなく、主人公に対して誰かが話して聞かせる形になるように、私はしています。
あるいは逆に主人公が誰かに語る形で。

冒頭から親切のつもりで説明やってしまうのは、逆効果と思ってます。
読者さんはキャラを読みたいと思って手に取るんですから。


それで、私が気をつけているのは、主人公からスタートすること。最初の数行に主人公がもういること、ですね。

一人称ならともかく、三人称だと、主人公不在のスタートが物語全体の大事な仕掛けになっていて印象的でない限り、あれ、主人公はどこ? と思われがちでしょう、と考えてやってます。
人称については、次回に語りたいと思います。

たとえば、まず何か事件が起こった現場を描写して、その次のシーンで主人公が事件と全然関係ない場面からのんびり登場っていうパターン。
読者さんはカバーイラストとか見て、主人公のキャラの活躍を読みたくて手に取るんで、「あれ?」となりそうです。

主人公が不在の場所での事件を見せたかったら、主人公が事件の報道に接する場面からスタートするといった、工夫が要ると思います。
現代ものならテレビニュース、異世界ファンタジーなら記録した本がいきなり主人公の頭に降ってくる、みたいに。

主人公はその事件に何か発見をして、驚いた方がよりいいです。
興味深いが自分には関係ないと思っていたら、実は、みたいなのは読者さんを今後に期待させるのがワンテンポ遅れちゃいます。
「出版社が用意した無料お試し」の中に収まりません。


結論としては、主人公を開始5ページ以内にもう戻れない事件の渦中へ引きずりこめ、ですね、あくまでも私の方針ですが。

事件でなく、まずは強烈な人物と知りあう、でもいいんですけど。
こういうキャラは空から降ってくることがよくあるので、「オチもの」というタイプの出だしです。宇宙人や妖精が目の前に現れたり、謎の転校生がやってきたり。
とにかく主人公の日常を乱すんです。


それから、主人公とメインキャラの名前と外見と性格、設定をなるべく自然な形でこの部分に書きます。背景もです。
一人称だと、主人公の名前を書くのって案外難しいんですよね。
逆手にとって「私」「僕」のまま名無しで最後までいけたりしますから。

昔の少女小説だと、地の文で――
 わたし、時海結以、十五歳の高校一年生。
 友だちからは「ゆーい」って呼ばれてる。
 とくに親友のエミとか。
 エミは美人で、髪がきれいで頭よくて。
 わたしは全然逆。
 うらやましい。
みたいなことが1ページめに書かれていたそうです。
短文句点の全改行で。まあ、私も実際に見てないんで、都市伝説かもしれませんけど(笑)

でも、今(ケータイじゃない小説で)それをやっても、たぶん新人賞の審査で落とされる可能性が高めなんじゃないかと思いますのでご注意(笑)


ま、シリーズ2巻以降だと、私もさっさと地の文ですらすら自己紹介しちゃったりしてますが。
それはプロの確定したシリーズだからできることで、私も1巻めではさすがにやらないようにしてます。

これから応募される方はどうぞまねせずに、独自キャラ紹介を工夫してくださると、幸いです。下読みさんや審査員の第一印象もきっとよくなるでしょう。


それと余裕があれば、書き出しに「これは他になかった」というギミックかガジェットを入れます。
(ギミックやガジェットについての説明は、製作秘話の過去ログのタイトルから探してください、すみません)
ナンだそれ、おもしろそう、と思ってもらえる可能性がぐんと高くなりますので。

これもよく言われることで古典的なアドバイスに入るでしょうが(元ネタ本があるらしいですね)、「どっちもよくあるものだけどこの二つを並べるのは意外な組み合わせ」というのもご紹介しときます。


書き出しで「この本読みたい」と思ってもらわなければ……これは小説家・書き手として、大事なことだと私は思ってます。
書店の店頭の立ち読みでも、ネットでの立ち読みでも、とにかくレジへ持ってってお金払っていただけないと。
これはおもしろそうな本だけど今だらだら立ち読みしてる時間がない、そっこーで買って、うちへ帰ってじっくり読みたいと思っていただかなくては。

だって、途中を立ち読みするかたって、そんなにいませんよね?
イラストだけのぞくかたはいるかもしれませんが。私もそうですが。

だから書き出しは重要だと、思うんです。けっこう考えて、決まるまでは絶対に本文のどこも書きはじめないです、私。

書き出しが決まっても途中を先に書いてキャラの感触を確かめてから、大切に書き出しを書くことも3作に1作くらいはあります。

ヒット作の書き出しだけを徹底していくつも書き留め、意識に置く、という研究方法ってありだと思います、私は。


余談。
書き出し、といえばスヌーピーがいつも自称小説家としてタイプライターを打ち「嵐の夜だった」と書いてるのが思い浮かびます。
あれ、アメリカでネタとして有名らしいんですが、リットンという小説家が1830年に書いた作品の冒頭パロディなんでしょうかね。

(C)2005-2017 Yui Tokiumi all rights reserved