風の鳴る音
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制作秘話 5

《其の伍》

前回からの続きで、民俗学的シンボルモチーフについてです。
「業多姫」を書く上で、意識して登場させている場所やものなどがあります。
密かに持たせている意味があるためです。
それらについて列挙しましょう。

「びしょ濡れ」……なんかキスと並んで名物シーンの一つになってますが(笑)、水や海が自我の無意識部分のシンボルなので、それに濡れるのは無意識部分を自覚したことになります。
各巻で濡れたあと、颯音は自分の気持ちになにやら変化を覚えているようですよね。
「家」……これが現在の生活する自分です。
護らなければならない、自分で手に入れて築いてきた自我。
ふたりは「小さくて隅々まで見渡せる、こざっぱりした自分たちの家」をようやく手に入れました。
壱巻では、二人きりで身を寄せた場所は仮のものばかりでしたが。
ちなみに戸谷ノ庄は「アジール」(聖域・避難所)です。
ここを出てしまったら、二人はどうなってしまうのでしょうか?

「鳥と花」……鳥は予告や予兆、花は理想のシンボルです。
日本的な情緒をということで、毎回必ず花鳥風月が出てくるように意識しているのですが、鳥が出てきたら何か新しい展開が感じられるように意識しています。
たとえば壱巻では燕とカキツバタが出てくるシーンのあと、颯音は忘れていた「笑うこと」をし、鳴は心情を告白してしまいます。
そして二人は心が触れあうのです。
参巻のラストでは、旅立ちのシンボルとして渡り鳥を登場させました。
銀さんが取り出す花は、彼が鳴と颯音に比べて自立した大人になっていることを示すと同時に、「生きているけれど魂がない幻の花」と言うように、戦国の世の無常さを表しています。

「『狐』の指導者たち」……男が成人するのに倒さなければならない悪の父性ですね。
たいていの少年向けバトルストーリーには、こういう悪役がいて、中ボスとかラスボスとか(笑)。
成長するには強い大人を倒さなければならないんです。
世代交代のために。
善の父性は「賢者」(ワイズマン)と呼ばれて、主人公に知識を与えてくれます。
RPGには欠かせない存在ですよね。
父性があれば母性もあります。
根っこは愛情から来ているのに、主人公を縛り、恐ろしがらせる支配者の女性を「ゴッドマザー」と呼びます。
日本の民話では「やまんば」です。
この役をしているのは誰か、わざわざ言う必要もないでしょう(笑)。
こちらも倒され、乗り越えられるべき存在です。
善の母性は「良い魔法使い」とか日本だと「観音様」という形で民話に登場します。
あとトリックスター(話をかきまわすいたずら者)が欲しいところですが、迅はそんなかんじかな。

四之帖ではあとふたつみっつ、シンボルを新しく出してみました。
お楽しみに。
次回は趣向を変え、一冊の文庫本が出版されるまでの流れを説明したいと考えています。

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