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制作秘話 42

《其の四十二》

今回は、平安時代の貴族の女性の自立とか仕事とか経済とか、というお話。

平安時代、女性は身分が高くなればなるほど、自由ではなくなりました。
結婚も自分の意志ではできませんし、住まいからどこかへ出かけることすらできません。
あの重たくて長い衣と髪で、ひたすら室内で暮らすわけですし、化粧品には中毒性のある金属である鉛や水銀が使われてましたから、長生きできそうもないですよね。

一夫多妻制だった平安時代の貴族、なぜそうなったのでしょう。
家・血筋・一族・血縁、そういうものを守るためですね。
貴族の男性の仕事は全員国家公務員か国会議員になるわけですが、身分と地位で出世の限界が設定されている(ポストに限りがある)ため、自分の一族の地位を守ろうと必死でした。
平安時代もあとのほうになると、地位と身分だけもらっても、実際には働くポストがない、という状態にもなるようです。

この考えは平安時代初めの9世紀ごろ、確立してきました。新興貴族にはいるだろう藤原氏が特に大切にしたようですね。
血筋……女性の産む子どもの父親が誰か、絶対に明らかにしておかなければならない、このため女性は不特定多数の男性と(ぴーーーっ)してはいけなくなってしまったわけです。

それにともなって、男性はその女性を自分用に確保しておくために、生活の面倒を見て、その代わり家に閉じこめます。これが結婚です。
結果、父親か夫が経済的に支援してくれない女性は、たちまち生活に困ってしまう、というはめになります。
身分が高いほど、誰か男性の世話になって生きるのが上等、という世界ですから、簡単に働きに出るわけにはいきません。
生活に困ったら、自分より身分が下でも経済力のある男性の妻(それも正妻じゃないことが多い)になるほかないわけです。

いまのわたしたちからすると、ちょっと理解しがたい常識ですけれど、それを知っていると、「源氏物語」を読むのが楽になるかもです。


身分がそれほどでもない女性はたくましく、働きに出ます。
当時はまだお金がそんなに普及してませんから、住み込み食事付きでお給料は着るものや生活用品の現物支給、という仕事です。
つまり女房ですね。メイドさんです。

赤ちゃんを産んで1年くらいで、お乳の出と人柄のよい女性は、乳母としてより身分の高いお屋敷に就職できました。
認められれば、教育・世話係としてずっと雇ってもらえますし、自分の赤ちゃんもそのまま若様姫様の遊び相手から従者として働いていけます。惟光がそうですね。
場合によっては自分の旦那さんも「家司」つまりは執事みたいな仕事へ一緒に雇ってもらえました。一家そろって就職、なんてありがたいことでしょう。
牛車や馬の世話は男性の仕事ですが、かなり身分の低い仕事だったようです。料理人はだいたい女性ですね。

雇われた使用人はわりと転職が自由でした。引き抜きあり、移籍あり、待遇が悪いとすぐ使用人に逃げられたようです。
それを管理するのも、紫の上のような奥様のたいせつな仕事でした。

京の町には職人の他、お屋敷への通いの雑用や汚れ仕事をひきうける人、工事労働者や近隣の農村から食べ物を仲買してきて売る人、こういう庶民が生きていました。


ところで、貴族の男性はどうやって収入を得ていたのでしょう。
荘園制度ですね。農産物や木材、絹・麻の現物を運ばせて、自家消費のほか、紙や漆や金銀など工芸品の材料と取り替え、職人にその材料と代金に当たる衣食を与えて、贅沢な品々を作らせていたのです。
衣の染色や縫製は、それが趣味という奥様はみずからやっていたそうですよ。織物だけ注文で布を織らせて。
下級の役人は税からだいたい現物でお給料もらってました。上流貴族は大して給料はいらないわけで、得られる地位と身分によって、どれだけ私有財産が殖やせるかだったのです。

国有地よりも豊かな私有地を保てば、国有地からの上がりでまかなわれている「国からのお給料」もらうよりも、ずっとリッチですからね。
摂関政治の頂点に立てば、下手すると国家予算よりもお金持ちだったのでは?
経済もこうした私有財産が動かすので、経済政策ってあんまり必要がないというか、第一次生産が安定すればそれでよいわけなのでした。天災がこないようにお祈りする、これが政治で一番重要課題。

しかし荘園の現場では、別の荘園との、人と人のトラブルとか、やっぱりあるわけですよ。
それを自己防衛していた現場の責任者たち、がやがて武士となるわけです。
現場を知っている武士は、必ず農民を大切にしました。誰かが田畑を耕してくれなければ、食うに困るんですから。農地も大切にしました。

貴族たちは現場任せだったので、農民をろくに見たことがなかったのですね。
誰のおかげで農産物が作られているのか、に考えが及ばなかった貴族は、やがて滅亡というか、武士によって権威付けのためだけに「保存」されるごく少数の人々になります。
それが鎌倉時代の終わりから室町時代あたりです。

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