風の鳴る音
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制作秘話 4

《其の四》

初めにお断りいたします。
今回は参之帖発売記念? の特集です。参之帖のネタを思いっきりばらしますので、本文未読の方はご注意くださいませ。

業多姫の物語中の日付はやけに具体的です(笑)。
しかしそれは旧暦ですので、我々の感覚とはずれがあります。
鳴と颯音が出逢った皐月の一日、天気がいいのですが、これは実は梅雨入り直前の最後の晴れ間でした。
一応、最初に書き出したときは、40日ほどずれている設定だったのです。
皐月の一日が6月10日。
しかし、弐之帖のラストの七夕はなんか一ヶ月半ずれて8月下旬、参之帖になったらもう少しずれているかんじ、9月末のはずの葉月の十五夜がなんだか秋本番になっている。
戸谷って、そんなに北ではないと思うんだけどな(苦笑)。
いくらなんでもずれすぎかも、と次で修正したいと思います。

サブタイトルの○○月が月名の異称なのは、ずっと同じなのですが、参之帖ではちょっとだけ・・・正確には恋染月というのは辞書には載っていません。
p122の「こぞめづき」の他の字は載っていますが(紅は実は「べにそめ」です)。
次巻以降のサブタイトルも一応考えてありますが、ちゃんと決まった字を使うので今回だけがちょっとイレギュラーです、ごめんなさい。

で、時海はどこからモチーフを引っぱってくるかという話になるのですが、基本的には昔話や民話の研究からです。
ユング心理学の分析あたりとか、文化人類学的解釈とか。
参之帖には「母神殺し」モチーフを借用しました。
母を殺した少年と母を殺された少女のお話ですので。
大地母神を殺してばらばらにすると、食料になる植物がばらした死体から生えてくるという神話がアジア地域に広くあります。
日本ではオオゲツヒメです。
なので今回は通過儀礼としての個体再生と母神殺しを主人公にさせてみました。
こう書くとなんか難しい言い方ですが、要するに洞窟という閉ざされた空間で自分を取り戻し、水が満たされた細い空間を息を止めて命がけで通り抜け、女神さまはどっかーんと壊れちゃうというクライマックス。

民族によっては、母親の胎内から赤ちゃんが生まれる様子を再現するという通過儀礼があります。
通過儀礼というのは一種の成人式で、男子のみに科せられることがほとんどです。
例えばバンジージャンプは元々ある民族の通過儀礼で、大人になった勇気を示すと同時に、いったん死にかけて生き返り、子どもの自分を殺して捨てることを表します。
ということで、あの細くて水が満たされた通路のある洞窟というのが、胎児がいる場所と同じだから、女神の体として神聖な場所になったという設定なんですね。
で、再生のために神話通りに破壊してみました。
女神信仰だった中萩の意図でしょう(笑)。
颯音がした洞窟脱出は再生の通過儀礼モチーフです。
大人の男になるための。

大人の男は妻を得なくてはならないのです。
自分の守護を申し出た娘の助けを借りて通過儀礼という試練や闘いを行い、成功させるモチーフは、日本神話にも多く出てきますし、他の民話にもたくさん出てきます。
その結果、娘とはめでたしめでたし……颯音くん、まだ試練があるようなのでがんばってくださいね(笑)。

あと、和玖也と海の関係ですが、海は潜在意識の象徴です。
胎内にいるときは羊水に浮かんでいることからか、水や海が民話のモチーフでは心の奥の無意識を象徴するケースがあります。
もうひとつ、山や森も還る場所やさまよう場所として、心の中を象徴します。「死んだら土に帰る」というかんじですね。
海が颯音の心の中なら、森が鳴の心の中です。
だから弐之帖p276〜277ではイメージを使いました。
あのシーンの意味はですね、「きちんと告った」という解釈にしといてくださいませ(汗)。
弐之帖の冒頭が森の中というのは、白雪姫が森に放たれたり、眠り姫が茨の茂みに包まれたように、少女が親から離れて夫を捜すようになったことを示す象徴モチーフをイメージしました。

花や家や鳥などこれ以外のモチーフについては、また次回に。

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