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制作秘話 34

《其の三十四》

平安時代の貴族の女性といえば、「じゅうにひとえ」。

実は「じゅうにひとえ」という呼び方が固定されたのは、室町時代末期だそうです。
だから平安時代の呼び方としたら、「裳唐衣(もからぎぬ)」とか「女房装束」というのがよいですね。
「装束の日本史 平安貴族は何を着ていたのか」(近藤好和先生 平凡社新書 2007年1月刊)を参考に、トリビアしてみましょう。
(なお、このご本、中高生の皆さまには、かなり難しいと思います)

*ホントに十二枚重ねていた?
枚数は決まっていなかった、というのが正しいところ。季節によっても違うし。
で、あの衣「袿(うちき)」というのですが、先に全部重ねちゃうんですね。
で、一気に着る。だから着るのに時間はそんなにかかりません。
髪の毛を持っていてもらうか、専用のバーなどどこかにひっかけておく必要はありますが。
そしてここがポイント、脱がすのも簡単(笑) 裾踏んづけられたり襟首つかまえられれば、一気に全部脱げちゃいます。
だから男性に長い髪の毛つかまれて裾踏まれれば、もう、女性は逃げられず、脱がされるだけ(えーっ)らしかったですよ?

袿は表地と裏地が背中で縫い合わせてあるだけ。あとは、袖と襟がかがりつけてある。
裾とか袖口は縫ってないんです。ほつれないよう端をちょこっと折って、ご飯粒ののりでくっつけてあるんですね、びっくり。だからお洗濯は簡単にできません(笑)

あと、全部の袿のサイズが同じです。それを重ねるんですから、当然下になったのは、押しこめられて、しわがよりますよね。
古い絵巻物には、そこのところがきちんと描かれています。袖口からのぞく下の袿には、しわというか、フリルっぽくなってしまった状態が。
現在、特にドラマの衣裳なんかは少しずつサイズをずらすので、重ねてもしわはよりません。

*あんなに着たら、重いでしょ?
実際に体験したかんじでは、肩に全部の重さがかかります、どこも帯で縛ってないから。
しかし、逆に言えば、縛ってないので、苦しくありません。普通の和服よりもずっと楽です。
裾を引きずるので、動きにくいことこの上ないですが。

ところで、平安時代は、織物の密度が荒かったため、重さが現在の絹の半分だったという説があるそうです。
としたら、こんなに重くもないし、冬はいっぱい重ねないと寒かったかもしれませんね。

*裳って? 唐衣って?
後ろにつけている白いひらひらの裳はスカート、丈の短いいちばん上の衣である唐衣はベストのなれの果てなんです。
奈良時代以前は、スカートをはき、ベストを着ていた、というのは、イメージできますでしょうか。
このふたつをつけるのが、成人女性の正装でした。スカートは巻きスカートだったので、それが開いて、うしろだけになり、スカートの下のドロワーズだった袴が見えているわけです。

裳の意味がわからなくなった室町時代以降、マントのように肩から掛けていたそうですよ。
それを江戸時代末期に、鎌倉時代頃の形に戻したようです。
私たちがひな人形で見るのは、江戸末期の公家のスタイルです。裳を体に縛る紐が飾りになった「引腰」(実際に縛る紐は小腰という)が帯のように太くて刺繍がありますから。

*袴(はかま)の秘密
まず、あれは、スカートではありません。一応、ズボンのように、両足わかれてます。
スカート型の卒業式に着物の上から履くのは「提灯(ちょうちん)袴」といって、明治時代、女学生の和装の制服として活動しやすいように広まったものです。
今は巫女さんも略式の提灯袴をはいていることが多いそうですね。

さて女房装束の袴、両足わかれているといっても、膝のあたりからでした、私が体験したところ。
上半身に着ている肌着の単(ひとえ)の長さ分は、よゆうがあるわけです。そして、裾が長い。歩きにくい。

巫女さんは真っ赤な袴ですが、さて、なぜだと思います?
神の花嫁だからでしょうね。未婚の少女はワインレッドの袴、既婚女性が赤い袴をはいたのです。

*引きずって着てるんだから、ぜったい汚れたよね?
よく考えてみましょう。一番下から順々に、裾の色が見えていますよね? 
サイズは同じです(重ねるぶん、袖口とかも上ほど引っぱられてずれますけど)が、一番下になるのの丈を一番長く作るんです。だから、よごれたら、一番下のだけ替えればいいんです。
色の重ね方にルールがあって、でたらめに重ねてはいませんから、一番下になるのの色も決まっていたんです。
なので、涙をふくときも、一番下を袖口から引っ張り出してふけば、ばっちりです!(笑) 

まあもっとも、一番上は、髪の毛の脂汚れがついたような気がしますけどねえ……。
大和先生もおっしゃるに、あの髪の毛、汚かったそうですから。




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