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制作秘話 32

《其の三十二》

「源氏物語」は、今から千年前に書かれた平安時代のお話。
だから書かれているのは、千年前の風景や習慣。
おそらく、みなさま、そう思っていますよね? 私もそうでした。

ですが。

ノベライズを初めてすぐ、ひとつ、気になるところが見つかりました。
何度か出てきます「大陸から」「唐渡り」です。当時、大陸にあったのは大国唐というイメージです。
しかし、千年前の日本は、大陸と公式な国交を途絶えさせ、国風文化の時代だったはずです。
大陸の政治や文化を勉強するための遣唐使が、廃止されたのは9世紀末の894年。源氏物語が書かれる100年以上前のこと。

ここはテストに出るところ(笑)なので、詳しく書いておきますと、8世紀半ば五代目唐皇帝玄宗のとき政治闘争が起き、反乱軍が起きたのですね。「安史の乱」といいます。
これをきっかけに、唐の政治はぐだぐだになってきます。9世紀後半になりますと、なんども反乱が起き、ついに唐の王朝の力の及ぶ範囲は、首都長安周辺のみになってしまったのです。
なので菅原道真が、意味のない遣唐使をやめるようにという議案を提出、可決されたわけです。唐が滅んだのは907年。五代十国時代と呼ばれる小国乱立をへて、979年に宋が再び大陸を統一します。

どういうことでしょう。
紫式部が、宋という新しい国を知らなかったはずはないと思います。おそらく、以前のように朝貢しろという使いが、早速日本の朝廷にも来ていたと思うからです。しかしまだきちんと安定した国交樹立までは行っていなかったのでしょうね。
ここで、調べてわかったことは、紫式部は、「源氏物語」を100年以上前のお話として、全てを見聞きした、ある年老いた元女房が語った記録を紹介する、という設定をしていたのです。
ですから、ここに今政治の舞台にいる人とよく似た人がいても、それは別人で、わたしが言っているのは100年あまり前の人のことですよ、と名誉毀損のクレーム逃れをして、自由に書いたというわけです。
なので、「源氏物語」の中で、大陸にある国は、あくまでも「唐」なのでした。

なお、余談ながら、なかったのは国交のみで、民間の交易はありました。それもかなり広い範囲で、北はシベリアから、南は東南アジアまでの物産が、日本にも少しですが入っていたのです。香木は東南アジアでしか採れません。
鎖国とは異なります。わりとそういうことは、教科書では教えないんじゃないかなと思うので、言及しておきます。

案外、知られていないことなのかも、と思って、ご紹介しました。


以下は「あさきゆめみし」と「源氏物語」の解説で、私が個人的に読者のかたへお薦めしたい本です。オンライン書店で購入可能です。
(データには敬称略させていただきます)
「源氏物語ナビBOOK あさきゆめみしの世界」青木健・KISS編集部監修 講談社
 大和和紀先生のインタビューが掲載されています。

「痛快! 寂聴 源氏塾」瀬戸内寂聴 集英社
 イラストは「あさきゆめみし」より転載しています。

「源氏物語 六條院の生活」五島邦治監修 風俗博物館編集 青幻舎
 リアルなフィギュアとミニチュアによるジオラマ写真集で、源氏物語の風景を完璧に再現。ほんとにすごいですよ。
 このサイトからリンクしてある「風俗博物館」サイトも、ぜひどうぞ。

「源氏物語が面白いほどわかる本」出口汪 中経出版
 筆者が有名な塾の講師だそうで、国語の参考書的な書き方ですが、おそろしいほど、たしかによくわかります、ええ(^^)

「古典の中の女性たち 王朝生活の基礎知識」川村裕子 角川書店(角川選書)
 ストーリーではなく、平安貴族の生活習慣の解説です。

「源氏物語図典」秋山虔・小町谷照彦編 須貝実作図 小学館
 あらゆるものの図と解説と物語のどこに出てくるかが載っている図録です。

加えてこちらは大人の方で、「これを機に、現代語訳源氏物語に挑戦される」というケースに、「この一冊」でお薦めします。
「源氏物語ハンドブック」鈴木日出夫編 三省堂

現代語訳で「あさきゆめみし」になじみがよい本は、やや意訳よりの田辺聖子先生「新源氏物語」全3巻 新潮文庫 と思います。
また、最新の訳である、瀬戸内寂聴先生の単行本が、来月から講談社文庫で順次文庫化されるそうですので、どうぞ。1巻は1/15発売予定です。

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