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《其の三十》

今回からしばらく、「あさきゆめみし」と「源氏物語」のお話にします。
毎月更新めざしますので!

「源氏物語」は、けっして難しくありません。わかりにくいこともありません。
私は、言ってしまえば、ライトノベルの元祖だと思っています。
キャラの個性がしっかりと書き分けられ、しっかりした伏線と先の読めない意外性に満ちた展開、恋愛を巡る葛藤のリアリティと描写の細やかさ、どれもエンターテインメントですし、現在のゲーム・漫画・アニメの用語で表現できる設定が、既にいろいろとあります。その辺は、もう少しキャラの出そろう次巻でお話ししましょうか。。

「源氏物語」を読むときにネックになる、難しいと思われてしまうことのひとつが、いくら現代語訳になっていたとしても、今とは全く違う習慣とか常識に基づいて書かれていて、本文(作品中)に説明がないことです。
「あさきゆめみし」の小説では、原作漫画にはない部分で、なるべく会話の形にしての説明を織りこんだのですが、それでも説明しきれないほど、いろいろなことがらがありました。
この場所では、そのフォローをしたいと思います。


1回目は平安時代の貴族の恋愛と結婚、というお話。「あさきゆめみし1・2」のネタばれというか、出てくることを含みますので、未読の方はご注意下さい。

恋愛のポイントはふたつ。
まずひとつが、恋愛のスタートが相手の顔を見ていないことから始まる、です。
そんなでどうやっていたのか、まあ、うわさとお手紙の交換だけで妄想をふくらませるのですね、主に男が(笑)

もうひとつが、相手の顔を見ないまま、男が夜中にいきなり女の寝室へ侵入して、えー、なんというか、有無を言わさずにやってしまう、と。
想像つかないですよね、いくら常識とはいえ、女にとってはショックなことこの上なし。現代だったら、犯罪です。これでどうして両思いになれましょうか。

しかし、これしか恋愛のプロセスがない、恋愛って男ってそういうものなのよ、と周囲から思いこまされている女……お姫さまは、一生懸命、相手を好きになろうとするのです。そして、好きになってしまう。

でも、正式に結婚しなければ、やがて男は別の女の所へ行ってしまいます。何人と関係を結んでもいいのですから、男ってぇ……と思ってしまうのが、現代女性の私たちですね。
デートもしないし、告白するまで、手を握るまでがどきどき、なんてこともない恋愛、当時の貴族のお姫さまはそれでもけんめいに、男の人を好きになったのですね。
それなりに、見たこともない男の人からの手紙に、どきどきしたのでしょう。

こういった恋愛を仕立てあげるのが、女房たちです。
いい男がいると聞けば「うちにはすっごい美人のお姫さまがいますよ、どうですか?」とうわさを流します。
釣れたその男からお手紙が来たら、お姫さまにあれこれとお返事の書き方を教えます。
お手紙のやりとりがいいムードになってきたら、男がしのびこむ手はずを整えておきます。警備の者に見つかったりしないよう、知らないのはお姫さまだけということも大多数。

お姫さまは自己主張しないおとなしいお人形さんみたいな人が、いいとされていたのですね。
紫式部はこの女房でした。女房は男の人にすぐ顔を見られてしまう、対等に話もしなくてはならない、お姫さまではあり得ない「働く女性」です。


結婚は正式な場合でも、男が自宅から、女の実家へ通う、通い婚です。生まれた子どもは女の実家で育ちます。男子だけが一定の年齢……袴着(はかまぎ・男子の七五三)や元服で、父親の家に引き取られて、跡継ぎになるのですね。

唯一の例外が帝です。帝は宮中から外へは出られません。大切な行事があるときにだけ、大行列で外出です。
だから、帝の妻の候補になりたい女性は、宮中に行って住みこなくてはなりません。これを入内(じゅだい)といいます。

帝の子どものうち、女の子は降嫁……お嫁さんに出ます。頭の中将と葵の上の母「大宮」は、源氏の父帝の妹ですが、藤原の左大臣のお嫁さんになったので、いっしょに暮らしています。男の子は、次の帝になる春宮(とうぐう)以外は、成人すると宮中の外に家をもらい、名誉職みたいな仕事をもらって生活します。

源氏は、家はお母さんの実家、仕事は他の貴族と同じに出世の階段を自力で上がらなくてはならない、皇族ではない身分にされてしまったのですね。

結婚が安定して、女の実家にも跡取りの弟などが成長してきたら、夫の家でいっしょに暮らす、というようなこともありました。
そして、庶民は自由に恋愛し、いっしょに暮らしたり別れたり、好きにしてしていたのです。女房たちも釣り合う身分の男の妻となり、いっしょに地方へ赴任したり、しました。

上に書いたような特殊な恋愛と結婚は、身分の高いお姫さま(と貴公子)限定です。
逆に「平安時代の恋愛」という参考書的な説明で、全員がこの特殊な形、と思いこんでしまうこともあるようですが、やっぱり、変わってますよ(笑)
多くの人は、今と変わらずに、恋愛をしたのです。

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