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《其の十七》
久しぶりの制作秘話ですね。 お待たせいたしました。
玉響のネタばれです。
玉響(たまゆら)は辞書にも載っている言葉なので、作品のタイトルとしては、漢字・ひらがなとも割とよく見かけます。 ためしにオンライン書店で書名検索をしたら、この本を含めて20件ヒットしました。
富士見書房全体の会議の時、ミステリー文庫編集部の隣のブースにある「俳句研究」という俳句の雑誌の編集部からも、やはり句集に「玉響」とタイトルをつけるとの報告があったそうです。 担当のK美さまから伺いました。
時海としましては、なるべく意味に沿った、意味を効果的に使う内容にしたいなと考えています。 業多姫で「刹那」という仏教用語をくり返し使ったのですが、意味はよく似ています。「瞬間」「一瞬」という。 「生々流転」とか「無常」という仏教用語もあって、「永久」「永遠」と対極を成すのですが、それが日本人の感性というか。 仏教以前からあった日本人の感性。
ただし、一方向・一直線ではなく、「輪廻」「流転」、つまり変化がぐるりとくり返して、元に戻って再生する、という感覚ですね。 再生が永遠にくり返されるのを望む。 朝の来ない夜はない、春の来ない冬はない、という希望でしょうか。 業多姫でもすこし触れましたけれど。
なので業多姫の「業」と同じく、玉響では「わ」という言葉がくり返されます。 「和」と、「環」と。 日本の古代の呼び名は「倭」(わ)であり、大和朝廷は「やまと」の言葉が「山門」に由来するらしいのに「大きな和」と当て字しました。 日本最初の憲法を制定した聖徳太子は、一番めの条項を「和をもって貴しとなす」としました。 (余談、とうとしではなく、たっとしと読むのがより正しいみたいですが、皆さまの学校ではいかがですか?)
「わ」というのは円形の輪郭であり、じつは「集落・コミュニティ」を表す古い古い日本語なのですね。 縄文時代の集落は、真ん中に丸い広場を置いて、その周囲を家が取り囲みます。広場、といっても、墓地です。 たぶん、それよりさらに以前の長い長い原初の時代、氷河期の寒さの中、たき火を家族でぐるりと囲んだ、その「わ」から発展したのでしょうか。
卑弥呼の遣いが大陸へ渡り、係官から「どこに住んでいる?」と質問されて「わ」と答えた。 なので集落という意味の「わ」が日本というか、日本人……当時の大陸の人々の常識で、東海上の列島の西半分くらいに暮らす人を指す言葉になったと、ある学説は言います。
なんだか難しくなってきそうなのでこのくらいにして、次は「蛇の剣」についてです。なお、「けん」ではなく、「つるぎ」と読んでください、物語本文でも。お願いします。
イメタテが持ち主である「蛇の剣」こと「ミツチノツルギ」には、実在のモデルがあります。 考古学用語で「蛇行剣」(だこうけん)と呼ばれています。業多姫六之帖の第一章で「舟の塚」と鳴が呼んでいた、「先祖の古墳」のモデルにした地元の古墳から出土しました。 「ミツチ」は「みずち」と同じです。「みずち」は水属性で蛇とサンショウウオの中間みたいな水の神、バトルで経験値積んで進化すると激流や嵐の神となって天へ昇る……見かけは龍と変わらない……です。他にもいろいろ説はありますか。 ちなみに地の神で毒蛇なのは「おろち」です。
縄文時代の土器で、蛇のレリーフがついているものがあります。 冬眠から覚め、脱皮する蛇は「再生の象徴」だったのでしょう。 そして、男性の象徴です。すみません、いきなり話が下の方向で(笑)。 鎌首を高くもたげる蛇。 蛇の産卵や冬眠は、地の割れ目に潜って行われます。 地は次の命を産み出し芽吹かせる場所ですから、そこへ潜る蛇は(以下自主規制)。
まあ、そんなわけで(どんなわけだ・笑)、蛇は世界各国の神話や伝説でシンボリックに使われます。 エデンの園でイブを誘惑したのが蛇だというように。 蛇から発展したよりシンボル性の高いのが、東洋の龍です。 また、硬くて長くて突き立てるものも男性のシンボルとされて、力や生命力の象徴になります。 剣・矢・矛、そして柱ですね。大地に穴掘って立てる、掘っ立て柱。
イメタテが女性に触れてはいけない「少年限定」の縛りからはなれたとき、剣に選ばれ目覚めたわけで、力を正しく行使するために、対になるパートナーの女性を探す運命を与えられたのです。
まあ、伝説・ファンタジーの多くで、剣を持った若い男が旅をして、恋をして、その恋に絡んで怪物やっつけて、という成長過程が描かれます。 それは、ある時期の少年のどうしようもない体の衝動(で、判りますよね?)を本能のままに解き放つのは、ルールの出来てきた社会生活の中ではなかなか難しくなっているとか、野生動物なら当然行う雌の取り合いの闘いに替わってとか、まあそんな認識を種族で共有するための代替手段なんでしょうね。 次の世代を作り、種族を維持するのに必要な本能的行動の、理性によるコントロール手段というのかな。 ファンタジーの物語を少年が聞かされる、憧れる、というのは。
あと、「世の中を見てくる」経験というのも必要ですね。 男性が将来、妻子とコミュニティを守るためには、経験値・知識が多い方がいい。 そのためにも、剣を携え、まだ見ぬ理想の恋人と、経験値を上げるバトルを求めて、少年は旅立つわけです(笑)。 それは現代、パソコンやテレビの中でゲームになっていても、全く本質は替わらないのです。
次回は「玉」と「花」と「鈴」と「風」、そう、マユラについてです。
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