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制作秘話 10

《其の拾》

新刊発売恒例となりました(笑)、ネタばれ解説です。
今回は前後編で「いろどりつづり」のネタをばらしますので、未読の方は以下ご留意下さいませ。

なぜ前後編かといいますと、短編集なので、一話々々贅沢にネタを使い、調べたことがらをふんだんに取り入れたんですね(笑)。
なのでこの「其ノ拾」では第一話〜第四話、来月の「其ノ拾壱」では第五話〜第七話&幕間の「これ本当なんだってば」を語ります。
「室町時代の無駄知識」っぽいかんじで(笑)。
実際社会科のテストに出題されるとは思えないし。

では、以下ネタばれです。


☆第一話「撫子色の約束」
『月刊ドラゴンマガジン』2003年3月号掲載作品。
ちなみに400字詰原稿用紙で40枚いっぱいです。
ご自分で小説を書かれる方、分量の参考になれば幸いです。

プロット段階でまず担当さま、発表後は読者の方からいただいたご質問が「村人質なんて酷いことが本当にあったんですか」。
ありました――という研究を元にして書いた作品です。
しかも実際には免罪の掟なんかないんです。
殺されるとなったら、必ず八つ裂きで殺されるんです。

図書館で「こんな悪趣味な本、私以外に借りないよなー」と苦笑して手にしたのが「戦国時代の死刑方法」を解説した本。
母校の大学のとある資料室には古今東西のものすごい処刑道具ばかり並んでいて、怖くて一人じゃ見学できなかった、そこは幽霊が出るという噂があったっけ、等と懐かしく(?)思いだしながら読みました。

でもそれで殺されちゃったら救いようがないので、ヨーロッパ中世の免罪の掟や処刑方法を参考にし、オリジナルアイディアで園を助けてみました。
女性の髪を切るというのは、生きているけれど死人扱いという意味です。

未亡人といいますよね、夫が亡くなった女性を。
これは当時、夫が死んだ女性は髪を肩下で切り、「私は死んだ夫の元へ魂が行ってしまっている、未だ体だけ亡くなっていない人なのだ」と表したのが由来です。
第四話にある「尼さんの髪型」も同じで、魂は仏の国にある人なのですね。


☆第二話「夏つばきの白い花ひとつ」
書き下ろしです。
支配者から逃れて安全な場所を求め、隠れる裏切り者を当時の言葉で「走り者」と呼びます。
逃げただけで犯罪者として抹殺の対象になることも多く、時効は二十年(今川氏の例)とか、長期に渡ります。
颯音はこの「走り者」です。

その彼が巻きこまれる「鬼退治」。
敗走兵も他国の軍に採用されないうちは犯罪者扱いされるので、逃げ隠れが大変ですし、追う用心棒(無頼)だって元はおそらく似たような体験を経て、今は職があるのでしょうね。
中世はヒエラルヒー――ピラミッド型社会だったので、頂点の領主以外の人は必ず誰かの支配下にいなくてはならなかったのです。

誰にも支配されない人は存在してはならない。
ここで面白いのは、物もそうなんです。
誰かの持ち物を持ち物だと知っていて盗むと、持ち主の人の支配者から厳しい罰を与えられます。
ところが誰の持ち物でもない放置された物は、早く誰かが所有しないといけなくて、たいていは見つけた人が所有を宣言すればいいらしいんですね。
所有も使用もされないまま長年ほっとかれた物は「もったいないお化け」――付喪神になっちゃうんです。

なので、参之帖や四之帖で颯音が空き家からいろいろ無断拝借しているのは、この時代では正しい行為なんです。
現代ではごみステーションのごみも市町村の物らしいですが。
彼が泥棒していると思われたくないので(笑)、ここで明確にしておきますね。

「湯起請」は事実です。
古代は「くかたち(盟神探湯)」と呼びました。
アジアに特徴的な占いをかねた刑罰で、民族によっては油を沸騰させるそうです。
どっちが熱いって……どっちも大火傷の感染症で死にますよねぇ(怖)。


☆第三話「紅葉が手の中にいた秋」
「ペットを出しましょうよ。増田さんは動物描くの、きっとお上手ですよ」という担当さまの一言で書き下ろしが決まった作品です。
時「って、阿王ちゃんは二人のペットですよ?」
担「……大きすぎます。あの馬はそもそも闘いの援護役なんですし」

しかし二人はこのあと旅立ってしまうのでペットを預けることになるし、どうすると考えて、こういうラストというか、ストーリー全体になりました。
シリーズ最強キャラの銀さんの弱点は早霧のつもりだったのですか、なかなか強すぎなので、思いっきり弱点を作ってやれ、とこんなことに(笑)。

書き下ろしは気が向いた順に書いたので、これが一番最後になりました。
実は時海猫は好きなんですが、犬は好きでないし、ペットは小鳥や魚しか飼ったことがなくて、書きあぐねまして。
近所のホームセンターのペット売り場でじっと子犬のケージの前に座り、しばらく観察しました。
絶対店員さんに怪しまれたと思います……(笑)。

にしてもこの当時造花を必要としたのは、京の都の貴族のお祭りの飾りだけのような気がするので、芳さんたちは関西から来たのでしょうか……。
とか考え、関西弁を増田さま( 関西人)かこのサイトの管理人さまたちに習おうかと思ったけれど、面倒くさくなって、間接話法というか早霧の聞き書きで済ませてしまいました(笑)。


☆第四話「黒髪に霜を置くまで」
『月刊ドラゴンマガジン2004年11月号増刊ファンタジアバトルロイヤル』掲載作品。

掲載時には規定が原稿用紙50枚のところを4枚もオーバーし、イラストスペースを狭めてしまった……。
なのでイラストをあらためて描きおろしていただきました。
雑誌に掲載したイラストで反響のあったものは文庫にも収録されるのですが、この場合雑誌のイラストスペースが小さすぎ、増田さまにはご迷惑をおかけしてしまいました。恐縮してます。

八百比丘尼に「やおびくに」とルビを振りました。民話・昔話のスタンダードな研究書はそうなっている方が多いようです。
ただ、「はっぴゃくびくに」とルビの振られた妖怪関係の本も最近見ますので、時海はこっちの語感が好きということでよろしくです。

何百年も前の記録って「当たり前」だった言葉にはルビがないから、当たり前でなくなった現在、読み方不明のものが多いんです。
平安時代の貴族の女の人は「しょうし」とか「ていし」とか「せんし」とか教科書で習いますが、うそです。

「たぶん『あきこ』『さだこ』だったろうけど、記録にふりがながなくて判らないからとりあえず音読み」なんです。
ではなぜ男性の名前の読みが判るのか……女性がした記録はひらがななんです。で、なかなか女性は女性の名前を記さない。
自分の名前でさえ誰々の娘とか書いておく。

女性がうかつに名前を公表しない。
これは姉妹パワーの一種から来る古代の信仰で、姉妹は兄弟の守護のパワーを持ち、特に名前に秘密があったんですね。
名前を知っている男性にだけパワーを使える。
兄が妹の名前を知っているのは当然です。

なので、女性が他人の男性に名前を教えるのは結婚の承諾なんですね。
実は壱之帖で二人の出逢いを書いたときにまず名前で引っかかりまして、そんな簡単に初対面の男に名前教えないだろー、とは思ったんですが、でないとその先の文がまどろっこしくなるのであきらめました。

姉妹パワーの信仰、銀さんも持っているっぽいですが、現代にも生きているようないないような……妹萌えですか(笑)。

雑誌発表後「鮫の肉はまずいらしい」というご指摘のお手紙をいただきました。
すみません。
そういう大航海時代の記録も読んではいますが、「伝説の肉」で日本海側で……って他に思い浮かばなかったんですよ(汗)。
だからきっと、鮫ってのもでたらめかもしれません、玉泥棒娘のでっちあげ(笑)。

第五話以降はまた来月に更新します。

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